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東京地方裁判所 平成11年(ワ)5090号 判決 2000年11月30日

原告

社団法人日本音楽著作権協会

右代表者理事

【A】

右訴訟代理人弁護士

小口隆夫

原告補助参加人亡【B】承継人

【C】

【D】

【E】

右三名訴訟代理人弁護士

前田哲男

被告

株式会社エンダ

右代表者代表取締役【F】

被告

【F】

主文

一  被告株式会社エンダは、原告に対し、九二六万九三四二円及びこれに対する平成一〇年五月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告株式会社エンダは、原告に対し、二二一万八七九四円及びうち一万八二七〇円に対する平成一〇年六月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告の被告【F】に対する請求を棄却する。

四  訴訟費用は、原告に生じた費用の二分の一と被告株式会社エンダに生じた費用を被告株式会社エンダの負担とし、原告に生じたその余の費用と被告【F】に生じた費用を原告の負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

一  被告らは、原告に対し、連帯して九二六万九三四二円及びこれに対する平成一〇年四月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  主文第二項と同旨

第二事案の概要

原告は、本件において、以下の各請求権に基づき被告らに対し損害賠償等を求めている。

1  請求①

被告株式会社エンダ(以下「被告エンダ」という。)が、別紙作品目録記載の楽曲(以下「【B】楽曲」という。)につき作曲者である亡【B】(以下「【B】」という。)から著作権の譲渡を受けた事実がないにもかかわらず、譲渡を受けているものとして原告に対して作品届を提出し、著作物使用料の分配を受けた行為について、主位的に、被告【F】と共謀の上右金員を詐取したことを理由とする被告ら両名に対する不法行為に基づく損害賠償請求権(右金員を受領した後である平成一〇年四月一七日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を含む。)、予備的に、法律上の原因なく右金員の分配を受けたことを理由とする被告エンダに対する不当利得返還請求権(解約届を提出した日である平成一〇年五月一二日から支払済みまで年五分の割合による利息の支払を含む。)

2  請求②

被告エンダが、別紙使用料及び違約金目録記載のコンサートを主催するに際して、原告の管理する音楽著作物について使用許諾を受けながら、所定の使用料を支払わなかったことを理由とする使用料及び違約金の支払請求権

3  請求③

被告エンダが、別紙無許諾使用料目録記載のコンサートを主催するに際し、原告の使用許諾を受けることなく原告の管理する音楽著作物を使用したことに基づく使用料相当額の損害賠償請求権(右コンサートの日である平成一〇年六月二三日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を含む。)

一  当事者間に争いのない事実

1 (当事者等)

原告は、「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」(昭和一四年法律第六七号)に基づき、著作権に関する仲介業務を行うことの許可を受けた我が国唯一の音楽著作権仲介団体であり、内・外国の音楽著作物の著作権者からその著作権の全部又は一部(演奏権、上映権等の支分権)の移転を受けるなどしてこれを管理し、国内のラジオ、テレビなどの放送事業者をはじめとして、レコード、映画、出版、興行、社交場、有線放送等の各種の分野における音楽の利用者に対して音楽著作物の使用を許諾し、利用者から著作物使用料を徴収して、それを内外の著作権者に分配することを主たる目的とする社団法人である。

被告エンダは、作詞家、作曲家等の創作する音楽著作物の管理とその利用及び開発を主な目的とする株式会社であり、被告【F】はその代表取締役である。

2 (原告と被告エンダの関係)

一般に、著作権者は原告と著作権信託契約を締結することなどにより原告の会員となることができ、それにより原告に対して著作権の信託譲渡を行うことができるところ(手続上は原告に対し作品届を提出することによる。)、被告エンダは昭和五三年一〇月一日入会が認められ、原告の会員となった(ただし、入会時の被告エンダの商号は変更前の商号である株式会社「エム、エィ、ピー、」であった。)。

3 (請求①について)

被告エンダは、【B】楽曲について、原告に対し作品届を提出した。そこで、原告は、以後これらの作品の利用者から著作物使用料を徴収し、それから所定の管理手数料等を控除して、被告エンダに対して平成三年三月から同一〇年三月までの間、合計九二六万九三四二円の使用料を分配した(なお、実際に使用料が支払われているのは、【B】楽曲のうち「赤ひげ」「天国と地獄」「沖縄決戦」の三曲についてである。)。

その後、被告エンダは、平成一〇年五月一二日、原告に対し【B】楽曲についての解約届を提出した。

4  (請求②について)

原告が著作権者から信託譲渡を受けて管理している音楽著作物を使用しようとする者は、あらかじめ原告からその使用許諾を受けて、原告の定める著作物使用料規程に基づく使用料を所定の支払期日までに支払う約定になっている。

なお、使用許諾を受けた者が、使用料を支払うことなく支払期日から三か月を経過したときは、使用料の他に当該使用料の二割に当たる金員を違約金として支払う約定になっている。

被告エンダは、別紙使用料及び違約金目録記載の各コンサートを主催するに際し、原告から管理にかかる音楽著作物について使用許諾を受けたにもかかかわらず、そのいずれについても所定の使用料を期日までに支払うことなく三か月を経過した。

右目録記載のとおり、被告エンダの未払使用料の合計は一八三万三七七〇円であり、違約金の合計は三六万六七五四円である。

5  (請求③について)

被告エンダは、別紙無許諾使用料目録記載のコンサートを主催するに際し、原告の使用許諾を受けることなく、原告が管理する音楽著作物を使用した。

右の音楽著作物の使用料相当額は、一万八二七〇円である。

二 争点(請求①に関して)

1 被告エンダは、【B】楽曲の著作権を【B】から適法に譲り受けたか。

2 被告らが、原告に対し【B】楽曲の作品届を提出して著作物使用料の分配を受けたことが、詐欺による不法行為を構成するか。

なお、請求②及び同③を基礎づける事実については、当事者間に争いがない。

三 争点に関する当事者の主張

1 争点1(著作権譲渡の事実の存否)について

(被告らの主張)

【B】は、【B】楽曲についての著作権を株式会社音楽出版館(旧商号株式会社「グッド、ミュージック」。以下、商号変更の前後を問わず「グッドミュージック」という。)に譲渡し、グッドミュージックはこれを更に被告エンダに譲渡した。以下、その経過を詳述する。

(一) グッドミュージックについて

グッドミュージックは、昭和四六年二月一三日、株式会社の設立登記を了し、同年四月一日、原告の会員資格を取得した。【B】は、右会社の発起人であり、株式四〇〇株を引き受けていることから、グッドミュージックの設立に深く関わっていることは明らかであり、【B】には、【B】楽曲をグッドミュージックに譲渡し、同社を支援するに足る十分な理由があった。

(二) グッドミュージックが【B】から【B】楽曲の著作権を譲り受けた経緯

【B】は、次のとおり、グッドミュージックに対し、【B】楽曲の著作権を信託的に譲渡した。グッドミュージックが正当な権利者であったことは、原告がこれらの作品をグッドミュージックの管理著作物として長期にわたり管理し、【B】もこれに異議を唱えていなかったことから明らかといえる。

(1) 「恋人たちの季節」(別紙作品目録の番号四、五、七ないし一六)について

グッドミュージックの株主であった俳優の【G】と【H】は、昭和四六年当時「若者たち」などの青春映画のスターであり、文学の才も豊かであったので、被告【F】は、二人の自作の詩の朗読と音楽が一体となったアルバムを制作する計画を立て、「若者たち」の音楽監督であった【B】に作曲を依頼した。録音の費用は、レコード会社の東芝EMIが負担し、原盤の権利を取得した。録音された音楽と詩の著作権はグッドミュージックにおいて管理することが、右企画参加者の合意事項であった。

一般に、音楽出版社は、専属の作曲家やフリーの作曲家に作品を委嘱し、譲渡を受け、その作品の利用開発を図るというビジネスを行っている。そして、作曲家に作曲を依頼するときはその作品の著作権の譲渡を受けることが前提となっている。【B】は、報告書(甲三)において、被告【F】の依頼により、前記アルバムに収録された作品一二曲を作曲したことを認めているが、これは右ビジネスのルールからして、依頼を受けて作ったから作品を譲渡したと自ら認めたことになる。

(2) 「寒い国」(別紙作品目録六)について

被告【F】は、昭和四五年ヤマハ音楽振興会の主催する合歓ポピュラー・フェスティバルの社外プロデューサーを引き受けた。これは、プロの作曲家が自作を競い合うという内容の音楽祭であり、参加作品の著作権はヤマハ音楽振興会が取得することが条件となっていた。被告【F】は、【B】に右音楽祭への参加を依頼し、【B】はこれを快諾して「道行」と「寒い国」の二曲を作曲した(詞はともに【I】)。その中から、「道行」の方がエントリーされた。右フェスティバルでは、国立音楽大学の後輩である【J】が歌い、グランプリを獲得した。「道行」は予定どおり主催者であるヤマハ音楽振興会が著作権を取得し、グッドミュージックは「寒い国」の著作権を取得した。

【B】は、報告書(甲三)において、被告【F】の依頼により作曲したことを認めており、かつ作品が生まれた経緯からしても、前記同様グッドミュージックに著作権を譲渡したとみるのが自然である。

(3) 「赤ひげ」(別紙作品目録一)及び「天国と地獄」(同二)について

右二作品については、昭和四五年一一月、東宝レコードからこれらを収録したLPレコード「黒沢明の世界」が発売されたことがきっかけで、【B】とグッドミュージックの間で著作権譲渡契約が締結された。当時、グッドミュージックは設立準備中であったが、同社の設立を祝い、【B】の方から著作権を譲渡する旨の申出があった。被告【F】は、東宝レコードの事務所において、【B】からグッドミュージックとの契約書を受領し、その際、右LPレコードの構成を担当したオーディオ評論家の【K】を紹介してもらったことを記憶しており、右譲渡の事実は疑いない。

(4) 「沖縄決戦」(別紙作品目録三)について

この作品についても、東宝レコードからLPレコードが発売されたのを機に、【B】の好意で昭和四六年著作権の譲渡を受けた。

(三) グッドミュージックから被告エンダへの著作権譲渡について

被告エンダは、平成二年一〇月五日、グッドミュージックから【B】楽曲の著作権を譲り受けた(乙一の1)。

(原告の主張)

被告エンダは、【B】楽曲について【B】から著作権の譲渡を受けていなかった。被告らは、【B】がグッドミュージックに対して【B】楽曲の著作権を譲渡した旨主張するが、そのような事実はない。

なお、【B】は、【L】映画の背景音楽に関する海外での権利を、他人に譲渡してしまったことを深く後悔していたのであり、このことを被告【F】を含む友人、知人に話していた。被告【F】はブローカー的な仕事をしており、【B】の海外での権利の譲渡について何らかの仕事の材料を得ようとして調査したことがあるかもしれないが、【B】が被告【F】に対し正式に調査を依頼したことはない。

2 争点2(詐欺による不法行為の成否)について

(原告の主張)

被告エンダは、【B】楽曲について、【B】から著作権の譲渡を受けていなかったにもかかわらず、譲渡を受けているものと偽り、前記一3記載のとおり、原告に対し、作品届を提出した。

なお、被告らは、【B】が被告らの著作物使用料の不払を黙認していた旨主張するが、仮に、被告らの主張するとおり被告エンダがグッドミュージックから【B】楽曲の著作権を譲り受けたとすれば、長年にわたる著作物使用料の分配金の不払を【B】に詫びるのが当然であるのに、被告らが【B】に謝罪したことはなく、かえって、被告【F】は、被告エンダの主催するコンサートのチケットを【B】に売りつけ、その請求書を送ってきたくらいであった。

被告らの主張が真実であるとすると、右のコンサートチケットの請求書を送りつけるという行為を理解することができず、このことは取りも直さず、被告らが原告に虚偽の作品届を提出して分配金の支払を受けていることを、【B】に秘匿し続けてきたからに他ならない。

(被告らの主張)

被告エンダは、グッドミュージックから【B】楽曲の著作権を譲り受け、権利者として、原告に対し作品届を提出したもので、【B】から新たに著作権の譲渡を受けたものと偽って、作品届を提出したものではない。

この間の経緯は、右作品届の受付日と同じ日に提出されたグッドミュージックの解約届(乙一の2)に解約理由として【B】楽曲を被告エンダに譲渡した旨記載されていること、被告【F】が平成二年一一月二一日原告の事務所を訪問した際に受付担当者に口頭で著作権譲渡の経緯を説明し、了解を得ていることからも明らかである。

第三当裁判所の判断

一  争点1(著作権譲渡の事実の存否)について

1  前記当事者間に争いのない事実、証拠(甲一の1ないし16、三、五の1ないし16、乙二ないし五、一〇、一二、一四、丙一、三、被告エンダ代表者兼被告本人【F】)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一) 【B】は、主に映画音楽の分野で多数の楽曲を発表している作曲家であり、中でも昭和四二年に作曲した「若者たち」は、現在も広く歌い継がれている。また、【B】は日本作曲大賞、芸術選奨文部大臣賞、紫綬褒章などを受賞している。

被告【F】と【B】の最初の接触は、被告【F】が小学館プロダクションに勤務していた昭和四五年ころ、他人の紹介を経ることなくいきなり【B】に電話をして、「小学館の【F】ですが、一度お会いしたい。」と述べて面会を申し込んだことにさかのぼる。【B】が被告【F】を自宅に呼んだところ、被告【F】は「若者たち」のような曲を作ってほしい旨依頼し、その際自分は昭和四二年当時新興ミュージックに勤めていたと述べた。

【B】は、小学館や新興ミュージックの名前が出たことから、被告【F】を信用して、その依頼を受けることにし、「昭和ブルース」を作曲した。

(二) 被告【F】は、その後小学館プロダクションを辞め、昭和四五年から同四六年にかけてアルファ・ミュージックに関与したが、同じころ独立して音楽出版会社を設立するための準備を始めた。被告【F】が中心となって昭和四六年二月一三日に設立された会社が、グッドミュージックである。

グッドミュージックの設立発起人は七名であり、その中には被告【F】と【B】が含まれていた。グッドミュージックの設立時の発行済株式総数は三〇〇〇株であり、そのうち、被告【F】は一〇〇〇株、【B】は四〇〇株をそれぞれ引き受けた。グッドミュージックの設立時の役員は四名であり、被告【F】は代表取締役に就任し、同社を運営していた。なお、グッドミュージックは、昭和四六年四月一日、原告の会員資格を取得している。

(三) グッドミュージックは、昭和四九年ころ株式会社音楽出版館に商号を変更したが、それとほぼ同じ時期に、被告【F】は実質的にグッドミュージックの経営を離れた(ただ、登記簿上は引き続き代表取締役として登記されていた。)。

それ以降は、【M】(昭和五二年まで)、【N】(昭和五三年から)が被告【F】を引き継いでグッドミュージックを経営していたが、同社は、平成八年、資本金が最低資本金の額に達しないことを理由にみなし解散となった。そのため、現在では、被告【F】が運営していた時期の分も含め、契約書、財務関係等の資料は存在していない。

(四) 被告【F】は、昭和五三年一月六日、被告エンダ(平成元年三月二三日に商号変更する前は株式会社「エム、エィ、ピー、」)を設立し、当初から現在までその代表取締役として、被告エンダを運営している。

【B】楽曲については、昭和五二年一月二六日受付でグッドミュージックから原告に対し作品届(甲五の1ないし16)が提出され、その後、平成二年一一月三〇日受付で、グッドミュージックから被告エンダに対し【B】楽曲を含む四四曲の著作権を譲渡したとして解約届(乙一の2)が、被告エンダからは作品届(甲一の1ないし16)がそれぞれ提出されている。

(五) 【B】は、昭和四〇年ころ、【L】映画の背景音楽に関する海外での著作権を仲介に入った日本人に騙されて他人に譲渡したことがあった。【B】は、そのことを深く後悔しており、右の出来事があったこと及び【B】がそれを悔いていることは、被告【F】を含めて【B】の知人、友人、音楽関係者には公知となっていた。

(六) 被告【F】は、独立後は主に作曲家や音楽プロデューサー等の関係者から情報を聞きつけては、あちこちに情報を伝えるという仕事をしており、【B】のところにもよく顔を出して仕事の話を持ち込んでくることがあった。しかし、【B】から被告【F】に対して積極的に仕事を依頼したことはなく、被告【F】が関与する場合でも、当初の口利き程度の段階にすぎず、実際の作曲の仕事は【B】と原盤制作会社であるレコード会社等の担当者の間で進められるのが通常であった。

被告【F】と【B】は平成一〇年までは毎年年賀状を交換していたが、その交際はあくまでも作曲家と音楽出版関係者という仕事上の付き合いの域を出るものではなく、現に被告【F】は、四、五年の間【B】方を訪問しないこともあった。

(七) 【B】は、原告からその著作物についての使用料の分配金の明細を記載した書面を毎月受領していたが、対象となる楽曲が多数にのぼるため、原告や著作権の管理を委託した音楽出版社が適切に処理をしているものと信頼して、特に明細書を細かくチェックすることはしていなかった。

【B】は、平成一〇年四月ころ、「赤ひげ」と「天国と地獄」などのビデオ販売元である東宝の音楽出版部門を扱う東宝ミュージックの担当者から、右楽曲の背景音楽について、被告エンダにより作品届が提出されていることを聞き、原告に調査を依頼したことがきっかけで本件が発覚した。東宝ミュージックの指摘を受けて【B】が調査したところ、【B】とグッドミュージックとの間に【B】楽曲の著作権譲渡契約があったことを裏付ける契約書等の書類は発見できなかった。

2  右に認定の事実を前提に、【B】がグッドミュージックに対し【B】楽曲の著作権を信託的に譲渡したかどうかを判断するに、次の各点を指摘することができる。

第一に、右譲渡の事実を裏付ける客観的な証拠がない。

すなわち、著作権譲渡の事実が存在するとすれば、それを証する契約書等の書類があってしかるべきであるが、そのような書類は現存しない(みなし解散となったグッドミュージックはともかく、少なくとも【B】は書類を保管していてしかるべきである。)。また、【B】の有する著作物使用料の取り分(二分の一)についてグッドミュージックからの支払を証明する書類(振込依頼書等)も存在しない。

この点に関し、被告【F】は、グッドミュージックは少なくとも平成二年ころまでは【B】に著作物使用料を支払っていたはずである旨供述し、これに沿う【M】の陳述書の記載(乙一六)も存在するが、客観的な裏付けを欠く上に、反対の趣旨の【B】の陳述書の記載(丙一)に照らし、措信できない。

第二に、当事者である【B】とグッドミュージックの代表者であった被告【F】との間には著作権の信託的譲渡をするような人的関係が存在しなかった。

すなわち、譲渡があったとされる昭和四五年から同四六年にかけて、【B】と被告【F】は知り合って日が浅く、しかも【B】は【L】映画の背景音楽に関する海外での著作権を他人に譲渡したことを後悔していたのであるから、簡単に著作権を他人に譲渡することは考えにくい。しかも、【B】のような著名な作曲家が、被告【F】のように業界で顕著な実績を挙げていたとは言い難い者が経営する会社に対し、将来にわたり著作物による収益の半分を与えるという内容の契約をするというのは、余りに不合理である。

被告らは、【B】がグッドミュージックの設立に深く関わっていることから著作権を譲渡する十分な理由がある旨主張するが、弁論の全趣旨によれば、昭和四六年当時、株式会社の設立に当たり七名以上の発起人が必要とされていたため、友人、知人の名前を借りて発起人になってもらうことが世間で行われていたことが認められるものであって、【B】がグッドミュージックの発起人として署名捺印していることから、直ちに経営に深く関与したと認めることはできない。

第三に、仮に譲渡があったとすると、被告【F】のその後の行動は不合理である。

すなわち、被告【F】の供述するように、原告から分配された【B】楽曲の著作物使用料を【B】に再分配する義務のあることを認識しながらそれを怠っていたのであれば、当然その旨を【B】に報告した上で詫びてしかるべきであり、その機会もあったのに、被告【F】は本件が発覚するまで【B】にその旨を謝罪したことはなく、かえって、被告エンダの主催するコンサートのチケット一〇枚の購入を【B】に依頼し、その代金の支払を電話で要求していた(丙一により認められる。)というのである。これは、著作物使用料の再分配をすべき義務を負っている者の態度としては説明が困難である。

以上によれば、被告【F】の陳述書(乙一四)に記載のあるように【B】が「昭和ブルース」の著作権を小学館プロダクションに譲渡したという事実が仮に認められるとしても、【B】がグッドミュージックに対し【B】楽曲の著作権を信託的に譲渡したことを認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

3  そうすると、グッドミュージックから被告エンダに対する著作権譲渡の事実の存否につき判断するまでもなく、被告エンダは法律上の原因なく原告から著作物使用料の支払を受けたということになる。

二  争点2(詐欺による不法行為の成否)について

1  前示認定の事実によれば、被告エンダが原告に対し提出した【B】楽曲についての作品届は、客観的真実に反する内容であったことになるが、本件全証拠によっても、右作品届の提出をもって被告らが欺罔行為を行ったとまでは認めることができない。【B】が原告に宛てた報告書(甲三)には、「東宝レコードからLP『黒沢明の世界』が発売された際、『天国と地獄』『赤ひげ』には日本地域では音楽出版社がついていない事情を知っていた【F】氏が、グッド・ミュージックが譲渡を受けたとしてJASRACに作品届を出してしまったのではないかと思います。」という記載があるが、仮にこの事実が認められるとしても、被告らによる欺罔行為を認めるには足りない。

2  また、被告【F】は、平成二年当時から【B】に対し【B】楽曲の著作物使用料の分配金を再分配する義務があると思っていた旨供述しており、右供述を覆して欺罔の意思を認定するに足りる証拠もない。

3  右によれば、詐欺による不法行為を理由とする被告両名に対する損害賠償請求は理由がないが、原告の被告エンダに対する不当利得返還請求は理由がある。

三  まとめ

以上によれば、原告の本訴請求は被告両名に対する不法行為を理由とする請求(請求①のうち)は理由がないが、被告エンダに対する不当利得返還請求(請求①のうち)、請求②及び請求③については理由がある。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三村量一 裁判官 和久田道雄 裁判官 田中孝一)

<以下省略>

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